掛け算の順序を区別するなら割り算は二つ必要

掛け算記号の左右の役割は異なるので順番を入れ換えてはいけないという立場がある。左側は「一単位あたりいくつ」を表し,右側は「何単位分あるか」を表すのであり,それらを逆に書いてはいけないのだという。例えば,2×3=6 と書いたらそれは「三人がそれぞれ二つずつみかんを食べた」という状況は表すが「二人がそれぞれ三つずつみかんを食べた」という状況は表さない,ということだと理解している。

その立場を貫こうとすると,掛け算記号の左側を求めるための割り算と右側を求めるための割り算の二つが別々のものとして導入されねばならないように思う。2×3 と 3×2 で意味が異なるのだったら,□×3=6 と 2×□=6 のそれぞれにおいて □ に入る値を求めようとするとき,両者において用いられるべき演算が同じである理由はない。□ はそれぞれ異なる役割を担う位置に置かれているのだから,それを求めるのにも異なる演算が用いられると考えるのは道理であるし,実は同じ演算で求まるのですと言われてもそう簡単に納得できるようには思えない。実際それらを区別する用語はあって,前者を等分除,後者を包含除と呼ぶ。

しかし,両者を概念として区別することはあっても,例えば異なる記号で表すなど,構文的に区別しているのを見たことはない。これはどうしてだろうか。掛け算の左右を区別するのと同じように,二つの割り算も構文的に区別するべきではないか。そうしないと混乱の元であるのに,横着をして両者をごっちゃにしてはいけない。

というわけだから,□×3=6 の □ を求めるための演算と,2×□=6 の □ を求めるための演算を区別するために,いま仮に前者であるところの等分除を/で表し,後者であるところの包含除を\で表すことにすれば

□×3=6 ⇔ □=6/3

であり,また

2×□=6 ⇔ □=2\6

のように書くことができる。こうすれば見た目にも別々の演算であることが明らかで,わかりやすいのではないか。

最後に参考文献をひとつ挙げておこう。

Residuated Lattices: An Algebraic Glimpse at Substructural Logics: An Algebraic Glimpse at Substructural Logics (Studies in Logic and the Foundations of Mathematics)

Residuated Lattices: An Algebraic Glimpse at Substructural Logics: An Algebraic Glimpse at Substructural Logics (Studies in Logic and the Foundations of Mathematics)