積分
ぼくにとって,数学といえば積分らしい。
それはきっと昔からそうで,ぼくにとって「積分」という言葉と積分記号は特別なものなのだろうと思う。例えば,あなたが誰かに向かって数学の話をしているところを想像して下さいと言われたら,黒板かホワイトボードに積分記号を書いているところを思い浮かべそうな気がする。普段は解析を使うようなことをあまりしないから,積分という概念自体はそれほど身近なものとはいえなくなっている気がするけど,そうなってから何年も経ってもやはりぼくにとって積分の特別さは変わらないものらしい。
どうして積分なのか,ということは,長い間気にしたことがないどころか,積分というものが頭の中の目立つ場所に居座っていることに気付いてすらいなかった。数年前にようやく,どういうきっかけだったか忘れたが,どうやらぼくの頭には積分という言葉が頻繁に浮かんできているようだということに気がついた。その後もそれがなぜなのかを考えた記憶はほとんどない。ところがこの間突然,これもきっかけは忘れてしまったが,もしかしたらあれではないかという記憶に思い当たった。中学の数学の授業中に積分の話を少しだけ聞いたことがあって,それが高校生になって実際に積分を学ぶまでずっと気になっていたのだ。
その中学の授業中に聞いた話というのは,扇形の面積が「半径×弧長÷2」になるということを習ったときに余談として出てきたものだ。この面積の式は三角形のそれと似ているけど,これは偶然ではなくて,細い三角形が無数に並んでいるとみなして計算すればこうなると理解できるということ。それから,今のは厳密ではない説明だけど,積分というのがあって,それを使うとこのアイデアはもっと厳密な議論に落とし込むことができるのだということ。その二つのことを聞いたのだと思う。
それ以上の説明は聞かなかったから,積分というものがどういうものなのかはわからなかった。でも,その時に出てきた「積分」という言葉はそれ以来ずっと覚えていたし,何か気になる,という気持ちを持ち続けていた。過去を思い返してみると,数学に対する興味は昔からあっても,具体的な数学の概念に対して興味を持ったことはそれまでにはなかった気がする。だからもしかすると「よくわからないけどおもしろそうだ」とかいうことを思ったのはそれが最初だったのかもしれない。そういうことがあったから,ぼくの頭の中では「積分」という言葉やあの記号が何か数学の魅力の象徴のようなものとして位置付けられているのだろうか。